HIVとエイズ

モノクローナル抗体を用いた細胞分析検査
─リンパ球サブセット─

京都大学医学部附属病院 血液・腫瘍内科 大森 勝之 先生

はじめに

リンパ球サブセット検査は、免疫能のモニタリング、治療効果の判定などに広く活用されている。近年では、T細胞レセプター、B細胞産生抗体のイディオタイプなど、抗原特異的なレパートリーの解析も盛んに行われている。免疫学的な手法をはじめ、DNA解析においても研究が進められている。しかし、抗原と抗原特異的なレパートリーの、いわゆる一対一の関係はよく判明していない。これは、検出法における問題のみならず、HLAを含めた免疫システムの複雑さを示している。一方、モノクローナル抗体により認識される抗原分子のほとんどは、機能を有することが解明されつつある。したがって、リンパ球サブセット検査は機能的サブセット群の解析がその中心となっている。すなわち、T、Tサブセット、BおよびNK細胞の解析が一般的な検査ということになる。

本稿では、臨床検査として実施されるモノクローナル抗体(monoclonal antibody; MoAb )とフローサイトメーター( flow cytometer;FCM)を用いたリンパ球サブセット検査の実際について、我々の知見をふまえながら概説する。

リンパ球サブセット検査の標準化

解析においては様々な問題があり、この分野においても標準化が進められている。測定法に関する国際的な標準化の作業は、CLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute, 旧NCCLS)を中心に進められている1)。その他、CDC(Centers for Disease Control and Prevention)2)、JCCLS(Japanese Committee for Clinical Laboratory Standards)3)からもガイドラインが公表されている。これらでは検査実施の注意事項として安全性、検体の採取、輸送、調製、免疫蛍光染色法、検体のQC手順、機器のQA手順、サンプル分析、データ分析、データ保存、データ報告などについて詳細に記載されている。

染色準備および検体採取

解析に必要な器具・装置および試薬を表1に掲げた。これらは施設の状況、使用するFCMにより、同様な機能を有する準備を行えばよい。リンパ球サブセット検査の対象となる検体は、末梢血、肺胞洗浄液(bronchoalveolar lavage fluid; BALF)が一般的である。その他、細胞浮遊液に調整可能な検体であれば解析が可能である。検体の採取、処理および保存法は、検査前における重要な事項であり、以下の点について注意が必要である。

表1 リンパ球サブセット検査の準備

〈器具・装置〉

EDTA入り採血管(BD Vacutainer, 367846, 367862)
検体採取・洗浄用試験管
10mLポリスチレンチューブ(栄研器材, FQ2100)
15mLポリスチレン遠沈管(IWAKI, 2324-015)
50mLポリプロピレン遠沈管(IWAKI, 2345-050)
濾過用試験管
5mLセルストレーナーキャップ付ポリスチレン
チューブ
染色用試験管
5mLポリスチレンチューブ
記載用マーカー
試験管立
マイクロピペット
チップ
2mLスポイト(アジア器材, S1200C)
ボルテックスミキサー
タイマー
冷却遠心機
冷蔵庫
吸引洗浄用アスピレーター
フローサイトメーター一式
BD FACSCalibur(BD Biosciences)

〈試薬〉

蛍光色素標識モノクローナル抗体
PBS, phosphate-buffered saline(pH7.4)supplemented with 0.5% fetal calf serum and 0.1% sodium azide
溶血試薬
Q-Prep system(Beckman-Coulter)
BD FACS Lysing solution(BD Biosciences)
PFS, PBS contained 0.5% paraformaldehyde and 0.5% saponin(自家調整)
NH4Cl-EDTA(NH4Cl (829mg), KHCO3(100mg), Na2EDTA(3.7mg)(自家調整)
フローサイトメーター用試薬一式
BD FACSFlow(BD Biosciences)、次亜塩素酸ナトリウム溶液(市販品)、蒸留水
1)末梢血
  • EDTA、ヘパリンなどの抗凝固剤を加えて採取し、全血のまま室温保存する。長時間保存する必要がある場合には、4℃暗所保存する。
  • 末梢血に用いる抗凝固剤は、EDTA血がよい。抗凝固活性が強く血小板の自然凝集を抑制し、血小板凝集塊のリンパ球画分への混入を防ぐ。
  • 4℃暗所に長時間保存後の末梢血は、転倒混和により細胞が崩壊することがある。染色に取りかかる前には、必ず室温に戻してから実施する。
2)BALFなど末梢血以外の検体
  • 採取後ただちにPBS(phosphate-buffered saline(pH7.4)supplemented with 0.5% fetal calf serum and 0.1% sodium azide)により洗浄する。
  • 濾過用試験管で濾過し、粉塵、その他の夾雑物を排除する。4℃暗所保存する。
  • 一部の検体は濾過せずに保存する。肺癌などの固形腫瘍が検出される場合があり、濾過による消失を防止する。
3)細胞の保存
  • サンプルは採取後、なるべく早く分析する。
  • 細胞の保存による死細胞の増加および活性化などは、偽陽性または偽陰性を与える原因となる。
  • マーカー分析においては、検体の長時間保存は不適と考えたほうがよい。


References
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