HIVとエイズ

ゲーティングにおけるポイント

測定法における重要な点は、解析の対象となるリンパ球にゲーティングの設定を行うことである。測定に際し、より多くのリンパ球を対象とし、また測定する画分の純度を上げるためである。ガイドラインでは、リンパ球の回収率および純度は、それぞれ少なくとも95%、90%以上としている。

1)溶血剤の選択

前方散乱光(foward scatter;FSC)と測方散乱光(side scatter;SSC)の組合せから得られるパラメーターを、サイトグラムと呼ぶ。すなわち、FCM上の細胞形態は光学的散乱光により得られるサイトグラムから判断する。サイトグラムを用いたゲーティング法は、FCM解析の基本である4)。リンパ球は、T、BおよびNK細胞画分から構成される。実際、図1に示すようにリンパ球画分の全体をT細胞、左下方にB細胞、右上方にNK細胞が観察される。したがって、全血溶血法では完全な溶血処理が必要となる。また、個々の症例において均質な処理を行い、同様なサイトグラムを得ることも重要である。この目的から、マニュアル溶血法のみならず自動溶血法も汎用されている5)。以上から、当室では新鮮末梢血はQ-Prep system( Beckman-Coulter)、保存末梢血はBD FACS Lysing solution( BD Biosciences)、BALFなど末梢血以外の検体は自家調整のPFS( PBS contained 0.5% paraformaldehyde and 0.5% saponin)6,7)を溶血剤として用いている。尚、NH4Cl-EDTA溶血剤は多くの症例で不溶血となるため、注意が必要である。

Lymphocyte gating fig1

図1 リンパ球画分におけるT、BおよびNK細胞の分布

全血溶血法で染色した、末梢血T、BおよびNKリンパ球の解析例を示す。モノクローナル抗体はFITC標識抗CD3抗体、PE標識抗CD56抗体、PC5標識抗CD19抗体を用い、FACS Lysing Solutionで溶血処理を行った。A:サイトグラムでは、主にリンパ球、単球、顆粒球の3画分が観察される。リンパ球にゲーティングを設定し、蛍光解析を行う。B, C:3-color解析から、2つの抗原の陽性率と発現量が同時に観察される。D, E, F:さらに、3-color解析からリンパ球画分の全体をT細胞、左下方にB細胞、右上方にNK細胞の分布が観察される。サイトグラム上のリンパ球画分には、T細胞、B細胞およびNK細胞が存在する。L:リンパ球、M:単球、G:顆粒球、水色:T細胞、黄色:B細胞、赤色: NK細胞.

2)リンパ球画分への影響因子

図2に示すように、リンパ球画分の左下方は赤血球の溶血残渣、血小板などのdebris、右上方には単球が混入しやすい。多くの症例では完全な溶血処理により、リンパ球の回収率および純度は満足する結果が得られる。しかし、一部の症例では問題が残る。洗浄操作により脱顆粒を起こした好塩基球は、右上方リンパ球画分にオーバーラップする。BALFでは、粉塵、上・中皮細胞などの非血液細胞が混在する。さらに、新生児、骨髄増殖性疾患、癌の骨髄転移例では、末梢血中に赤芽球が出現する(データ略)。これらの要因を排除するために、CD45とSSCを用いたゲーティングが推奨される。CD45は白血球共通抗原であり、白血球に発現が認められる。赤血球、血小板は陰性であり、赤芽球は成熟に伴い陰性化する。白血球においては、CD45の発現量が各系統の白血球により差があることから、マーカー分析に多用される。すなわち、CD45から得られるリンパ球画分(図2矢印画分)をゲーティングするのである。さらに、CD13あるいはCD33との多重解析により、近接する好塩基球・単球は排除されリンパ球画分は明瞭化する(データ略)8)

Lymphocyte gating fig2

図2 全血溶血法における細胞分布とリンパ球画分への影響因子

全血溶血法で染色した、細胞分布の解析例を示す。図上段は末梢血、下段はBALF解析例を示す。モノクローナル抗体はFITC標識抗CD16抗体、PE標識抗CD33抗体、PerCP標識抗CD45抗体を用いた。末梢血はFACS Lysing Solution、BALFはPFSで溶血処理を行った。A, D サイトグラム上、末梢血は主にリンパ球、単球、顆粒球の3画分が、さらにBALFではマクロファージが観察される。B, E 3-color解析からサイトグラム上の細胞群がペインティングされ、細胞分布およびリンパ球画分への影響因子が明確になる。C, F さらに、CD45とSSCの組合せからリンパ球画分が明瞭化する。CD45とSSCを用いたゲーティングにより、リンパ球画分の純度が上がる。L リンパ球、M 単球、G 顆粒球、MP マクロファージ、灰色リンパ球、赤色好塩基球、青色単球あるいはマクロファージ、緑色好中球、黄色好酸球、桃色: debrisあるいは非血液細胞.

3)多角的なゲーティングの必要性

サイトグラムおよびCD45ゲーティングについて述べたが、いずれも重要である。図3上段はG-CSF (granulocyte colony-stimulating factor)投与例を、下段はPTLD(post-transplant lymphoproliferative disorders)例を示す。前者はCD34、CD13陽性の骨髄系幹細胞が主体であり、骨髄性白血病症例でも同様なパターンを示す場合がある。後者はCD19弱陽性、CD38強陽性の活性化B細胞であり、初期の伝染性単核球症でも同様なパターンを示す場合がある。リンパ球サブセット検査では、前者は測定の対象外であり、後者は対象となる。サイトグラム上、両症例ともリンパ球画分の右側に大きな細胞群として認められる。また、CD45の発現分布位置は図2Cに示す好塩基球と同様なのである。したがって、幹細胞出現例ではCD45ゲーティングが有効となる。一方、活性化B細胞出現例ではCD45ゲーティングは無効であり、サイトグラムによるゲーティングを実施する。通常とは異なる細胞群を認めた際には、細胞の確認およびゲーティングの適用を考える必要がある。

Lymphocyte gating fig3

図3 多角的なゲーティングの必要性

図上段はG-CSF投与例、下段はPTLD解析例を示す。モノクローナル抗体はFITC標識抗CD34抗体、抗CD38抗体、PE標識抗CD13抗体、抗CD19抗体、PerCP標識抗CD45抗体を用いた。図上段はFACS Lysing Solution、下段はQ-Prep systemで溶血処理を行った。A, D:サイトグラム上、両症例ともリンパ球画分の右側に大型細胞群が観察される。C, F:大型細胞群はCD34、CD13陽性の骨髄系幹細胞(G-CSF投与例)、CD19弱陽性、CD38強陽性の活性化B細胞(PTLD解析例)と診断される。B,E:大型細胞群のCD45発現は、両症例とも好塩基球と同様な分布を示す。赤色:骨髄系幹細胞、黄色:活性化B細胞.